テーマ

『幼馴染』『雪』『ごまかし』

キミの好きな
ひと


「俺、好きな子いるんだ」









そんなことを言われたのは、寒さが厳しい1月下旬。

相手は、男友達でも部活の先輩でもなく、10年来の幼なじみだった。





そして、私の片思い中の相手でもあった。









「健吾も好きな人いたんだ」



平常心を保ちながら、隣を歩く幼なじみに尋ねる。


本当は聞きたくない。


だけど、口から出る言葉は思いとは真逆のことばかり。





「…そりゃあ、いるだろ。俺らだってもう高校生なんだし」




確かに、高校生にでもなれば、好きな人や恋人がいることは当たり前なのかもしれない。

私だって、目の前のこいつの事が好きなわけだし。





「じゃあ、その好きな子って誰?もしかして同じクラスの子?」




自分の気持ちをごまかしたくて、必死に笑顔を作る。



本当は泣きたいけど。



でも、笑ってごまかすことぐらいしか、この恋心を隠す方法を私は知らない。






私はただの幼なじみ。

だから幼なじみ≠ニして、これからも健吾の隣で笑っていられるように、今、私は必死で笑う。





「何、無理に笑ってるわけ?」



そう言いながら、私に伸びてきた健吾の手。
その手は迷わずに、私の頬を伝う涙をすくう。

無意識に溢れた涙。
一度溢れた涙は、止まることを知らない。


「けん、ご…」


嗚咽が混じりうまく名前を呼べない。それでも、健吾は「ん?」と返事を返してくれた。


わがままなのは、分かってる。
困らせるのは、知ってる。



私が健吾を好きなだけで、健吾は私のことをただの幼なじみとしか見ていないかも知れない。



でも、10年近く抱いてきたこの気持ちをこのまま終らせたくない。


ちゃんと自分の気持ちを伝えなくちゃいけないんだ。





「健吾、好きだよ。


健吾が誰を好きでも、私は健吾のことが好きなの」




しばらくの沈黙の後、健吾が口にしたのは予想だにしない言葉だった。















「俺も好き」

健吾はそう言って意地悪く笑ったのだ。




「……………は?」



さっきまで止まらなかった涙は、健吾の一言で呆気なく止まってしまった。


その代わり、私の口からは間抜けな声が漏れる。














「菜々が好きなんだ」

今度は名前を呼ばれ、はっきりと健吾は言った。




「ほ、本当…?」

また涙が溢れてくる。
私、さっきから泣いてばっかりじゃないか。




「ん。好きな子って菜々のことだよ」

そう言って、余裕の笑みを浮かべる。


―なんかズルイ


そう思って、健吾の手をそっと握った。
少し驚いた健吾だったけれど、すぐに余裕の笑みを取り戻す。

そして、私の手を優しく握り返した。




「あ、雪」

「本当だ…初雪だね」




2人で手を繋いで帰るなんて何年ぶりだろう。

昔と違うのは、私たちが幼なじみ≠カゃなくて、恋人≠ノなったこと。



雪はシンシンと降り続く。




まるで私たちの新しい関係を祝福するみたいに。

▼ キリリク小説完成致しました!
キリ番を踏んでいただいてから、随分と時間がかかってしまいました。申し訳ありません(>_<)

改めて君島様。
キリ番&リクエストありがとうございます!
そして素敵なテーマをありがとうございます!!

これからもよろしくお願いします^^
椿こと
Witten by stand by me

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