絶対なんて
ないと君が言うのなら

 ねえ紅葉、と蓮が俯き声を紡いだのは昼下がりのことだった。目が痛む程の強い日差しに打たれながら顔を向けると目に入るのは彼女の旋毛。どうした、と首を傾げてみせれば、彼女の華奢な肩がぴくりと動く。

「あのね」
「うん?」
「わ、私の……どこが好き!?」

 裏返った声が紅葉の耳を貫いた。予想外の言葉に紅葉は間抜けにも口を開く。

「蓮」
「な、なに……」
「一体どうしたのだ? なぜいきなり、そんなことを」

 蓮は普段からとても冷静な性格をしている。恋愛に関しては初心で可愛い反応を見せることも多いのだが、それにしても彼女のこの質問や反応は少しおかしかった。

 誰かに唆されたのだろうか。ふとそんなことを思いつくと、もはやそれしかないとすら思え、紅葉はその人物を想像する。脳裏を過ぎったのは、緑色の髪をした一人の妖怪――青竹だった。

「もしかしなくとも……あの鳥ではあるまいな?」
「え、ちょっと、あの」
「いつ会ったのだ」
「ちょ……!」

 詰め寄っていくうちに段々と染まっていく頬に紅葉は気づいていた。半ば押し倒してしまいそうな体制に、蓮は瞳を揺らしている。

「青竹くんに、言われたの」
「何を」
「私のどこが好きなのか、紅葉にきちんと聞いておいた方がいい、って」
「何故?」

 紅葉は心底訳が分からず、蓮に問い返すと彼女は一瞬不安の色を窺わせた。

「その……いつ、離れていってしまうか分からないから」

 蓮はほとんど搾り出すような声を出した。俯いて、床を見つめる彼女に紅葉は大きな息を吐き出す。

 ばかげている、と紅葉は思った。何が“いつ離れていってしまうか分からない”だ。苛立つ心境の中、紅葉は内心青竹へ毒を吐いた。だからアイツは好かぬのだ。蓮は何も不安がることは無い。自分が彼女から離れていくことなど未来永劫あり得ないのだから。

 しかし彼は一方で、こんな些細なことでも落ち込んでしまう彼女を可愛いと思った。紅葉のことを考え、そして不安になってしまう彼女をとてつもなく愛しいと、そう思ったのだ。

「蓮、お前は俺を信じておらぬのか?」
「ちがっ……信じてる、けど」


 でも、絶対なんて無いでしょう。

 そんな蓮の言葉を掻き消すように紅葉は彼女の頬に手を添えた。

「あるさ」
「――――え」
「絶対は、ある。 蓮がそれを無いのだと言うのなら俺が証明してやろう。 これからお前が俺から離れない限り俺は、絶対に、蓮から離れたりはしない」


 だからそんな顔をするな。紅葉は柔らかく口角をあげて囁いた。おでことおでこを合わせ、そのまま唇に己のそれを触れさせる。少しの時間の後、そっと離れた彼女の顔は思わず笑いを零してしまう程に熱かった。

▼ いつもお世話になっている彼方さまに捧げます。
鬼灯横丁一周年おめでとう!
これからも大好きです
Witten by 君島 / 2013.03.18

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